変化する米国関税政策下における越境EC戦略 — 現状と対応策

はじめに:不安定な国際通商環境

2025年に入り、トランプ政権の関税政策による越境EC事業への影響が日々拡大しています。米国による全輸入品に対する10%の基本関税と相互関税の導入、中国・香港からの輸入に対するデミニミス・ルールの撤廃など、次々と打ち出される政策変更に対応を迫られる状況となっています。日本の事業者にとって重要なのは、製品の発送元ではなく原産国が関税適用の基準となるため、中国以外の国から発送される商品であっても中国で製造された製品については関税が適用される点です。このように原産国ルールに基づいた関税政策は、グローバルサプライチェーンに大きな影響を与えています。

特に4月21日から28日までのDHLによる800ドル超の米国向け個人配送の一時停止は、日本の多くの越境EC事業者に影響を与えました。このような環境変化の中で、どのように対応していくべきか、現状の課題と実践的な対応策をまとめました。


1. 現状把握:越境EC事業者が直面する課題

物流面での課題

DHLは4月21日から28日まで、申告価格が800ドルを超える米国向けのB2C貨物の受付を一時停止しました。これは、4月5日から米国向け配送品の正式な通関手続きが必要となる金額が2,500ドルから800ドルに引き下げられたことが原因です。高額商品を扱う越境EC事業者では、米国向け売上の30%以上が一時的に出荷できない事態も発生しました。

現時点では、FedExやUPSなどの他の主要な国際配送業者による同様の制限措置は確認されていませんが、通関ルール変更の影響は継続的に監視が必要です。

関税コストの増加

日本からの輸入品に対しては当初24%の相互関税が設定される予定でしたが、4月9日のトランプ大統領の発表により、日本を含む報復措置を講じていない75カ国以上に対して90日間の停止措置が適用され、基本税率の10%になりました。ただし、鉄鋼製品やアルミ、木材など品目別に導入された関税については維持されています。

不確実性の増大

相互関税の90日間停止後の動向は不透明であり、日米間での関税修正交渉の行方が注目されています。また、2025年5月2日から中国・香港からの輸入品に対するデミニミス免除(800ドル以下の商品が関税免除となる制度)が廃止されます。このような予測困難な政策変更と為替変動リスクが、事業計画を立てにくくしています。

2. 実践的な対応策

ECプラットフォームの活用

越境EC事業者が今すぐ取り組むべき具体的な対応策としては、以下の方法が有効です:

Shopifyでの対応:

  • 米国顧客向けの案内
    • 地域限定バナー: テーマ>カスタマイズから国/地域セレクターをオンにして、アナウンスメントバーを表示
    • 例文:⚠️ IMPORTANT: Due to recent tariff changes, Chinese-origin products may be subject to additional duties. Orders over $800 require customs clearance. See shipping policy for details.
  • 商品情報の設定
    • CSVで一括登録: 「設定」>「税金と関税」から原産国とHSコードを効率的に設定
    • 関税機能の有効化: 同じ画面で「関税と輸入税」機能をオンにし、顧客に正確な料金を表示
    • 商品情報に関税情報を明記し、DDP/DDUについてわかりやすく表示(DDU:海外配送の場合、関税・輸入税はお客様負担となります)
    • Plus機能: Flowで新商品登録時に原産国入力を自動リマインド
  • リスク対策
    • ポリシーページ更新: 「設定」>「ポリシー」から、最新の関税情報を反映した返品・配送ポリシーを整備
    • 緊急時対応: 運送業者の配送停止など非常時には、Plusプランのチェックアウトブロックス機能で$800超の注文を制御可能

補足:Shopify公式による対応状況
2025年第1四半期の決算説明会において、Shopifyの社長Harley Finkelstein氏は、今回の関税政策に対し「Shopifyの全セラーがチェックアウト時に関税や税金を表示・請求できるよう、プラットフォームに変更を加えた」と発表しました(Shopify earnings call, 2025年4月)。この機能により、購入者にとって予期せぬ追加費用が発生しない透明性の高い取引が可能になり、クロスボーダー取引の簡易化が進められています。

Amazon Global Sellingでの対応:

  • FBA(Fulfillment by Amazon)を活用し、まとめて商品を米国内のAmazon倉庫に送ることで、個別の国際配送における関税問題を回避する
  • Amazon税関情報ツールを使用して、適切なHS(関税番号)コードを割り当て、税金計算の正確性を高める
  • 在庫分散戦略として、複数の国のAmazonマーケットプレイスに商品を登録し、リスク分散を図る

楽天グローバルマーケットの活用:

  • 米国の関税変更に対応するため、クロスボーダーフルフィルメントサービスを利用し、商品をまとめて米国の倉庫に送る
  • 楽天の越境ECコンサルティングサービスを活用し、関税対策の専門的アドバイスを受ける
  • 輸出禁止商品リストの最新情報を定期的に確認し、商品ラインナップを適宜調整する
各ECプラットフォームでの対応策比較

物流戦略の見直し

複数の国際配送パートナー(FedEx、UPS、国際郵便など)との関係構築により、特定の配送業者に依存するリスクを軽減しましょう。

ShipBob、Deliverr、ShipMonkなどの米国内フルフィルメントサービスを利用すれば、事前に商品をまとめて米国に送り、在庫を米国内に保持することで、関税や制限の問題を回避できます。

800ドルを超える注文には、複数の小口に分けて発送する戦略も検討できます。この際、顧客体験を損なわないよう、分割発送の理由説明と追加配送料の企業負担などの配慮が大切です。

価格・販売戦略の調整

関税コストの一部を企業が吸収したり、バンドル販売で単価低下を総売上増加で補ったりする方法があります。また、会員制度を導入し、会員には関税相当額のポイント還元などの特典を提供することで、顧客ロイヤルティと価格競争力を両立させることも可能です。

法人向け(B2B)取引は個人向け配送制限の影響を受けにくいため、B2B取引の強化や米国内の販売代理店とのパートナーシップ構築も有効な選択肢となります。

市場と製品戦略の多角化

カナダ、EU、オーストラリアなど関税環境が比較的安定している市場への展開や、CPTPP加盟国などの日本と自由貿易協定を結んでいる国々への進出を検討しましょう。また、国内在住外国人や訪日観光客向けのマーケティング強化も選択肢の一つです。

デジタルコンテンツやサービスなど物理的な配送が不要な製品への多角化や、日本製品の強みである品質や独自性を活かした高付加価値製品の展開も検討に値します。

情報収集と分析の強化

米国の通商政策や関税動向を常にモニタリングし、迅速に対応できる体制を整えることが重要です。過去の関税変更による売上への影響を分析し、将来の政策変更時の影響予測モデルを構築することで、データに基づいた冷静な意思決定が可能になります。

おわりに

越境EC事業の皆様の多くにとって、困難な状況かと思います。ただし、現在の状況は中国製品への高関税による日本製品の相対価値の評価にもつながっています。Shopifyなどのプラットフォーム活用や、代替チャネルの検討、物流戦略や価格戦略の見直しなど、様々な対応策があります。

また、当社は社内公用語を英語・日本語とするバイリンガル環境で、Shopify開発者コミュニティやグローバルパートナーネットワークから得た情報を今後も共有していきます。グローバル環境で働くことに興味のある方は、ぜひ当社のキャリアページをご覧ください。

注意事項

本コラムは2025年5月1日時点の情報に基づいて作成されています。米国の関税政策は非常に流動的であり、今後も変更が予想されます。ビジネス判断の際には、最新の公式情報を確認することをお勧めします。

参考文献

米国政府・公的機関の発表

日本政府・公的機関の発表

物流・配送関連情報

ECプラットフォーム関連情報

国際メディア報道

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