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アラン・ケイ・リバイバルプロジェクト第1回レポート

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開催日時: 2024/07/04 19:00〜21:40

アラン・ケイ・リバイバルプロジェクトとは

画像: business leaders square wisdomより

現代のマルチメディア社会を構想し、コンピュータ産業の発展に多大な影響を与えたアラン・ケイ。その偉大な業績に対する認知を広げ、業界の活性化に貢献すべく始まったアラン・ケイ・リバイバルプロジェクト。その第1回の内容についてご報告します!

フラッグシップ株式会社のフロントエンドエンジニアのReonaです。本プロジェクトは、アラン・ケイの思想を学び理解を深めていくとともに、情報を発信しコンピュータ産業の未来を担う次世代にその思想や業績に触れる機会を提供することを目的としています。

具体的な活動としては、1〜1ヶ月半に一度の周期で、課題資料や映像資料を設定し研究会(ディスカッション)を行います。それをレポートにまとめ発信していくことで少しでも多くの人に知っていただければと考えています。

第1回の課題資料は、アラン・ケイのプロフィールがわかりやすくまとまっている浜野保樹氏の論文「アラン・ケイ:未来を見通す力とは何か」でした。

「アラン・ケイ:未来を見通す力とは何か」浜野保樹
誌名: コンピュータ ソフトウェア
巻号: 7 巻 (1990) 4 号
発行: 日本ソフトウェア科学会
発行日: 1990/10/15
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssst/7/4/7_4_395/_article/-char/ja/

当初の予定時間は19:00〜20:30でしたが、議論は熱を帯び、最終的に21:40までディープな議論が繰り広げられました!

参加者について

初回には総勢15名の参加者が集まりました。フラッグシップ社員数名に加え、コンピュータ業界の方、情報学の研究者、ベンチャーキャピタル関係者、教育業界の方など多様な背景の方が参加しました。なかでも雑誌「日経コンピュータ」副編集長に実際にアラン・ケイにインタビューを行なったことのある坪田知己さんにもご参加いただき、当時の時代背景や業界の熱量についてのお話を聞くことができ貴重な機会となりました。

イントロダクション

はじめに、プロジェクトのオーガナイザーを務める日渡健介氏にアラン・ケイの業績の概要について話していただきました。

日渡氏は、社内で開催された「イノベーションと知の探究シリーズ」の中で、Appleのイノベーションの背景にアラン・ケイの存在があったことを説明しました。アラン・ケイの構想が未来を先取りしていたからこそ、スティーブ・ジョブズのクラフトマンシップと合わさって革新的な成果が生まれたという洞察を共有しました。

また、アラン・ケイは幼少期から毎年数百冊の読書をしてた大の読書家であり、氏の厳選した99冊の読書リストを見ると、コンピュータ分野に限らず、心理学・政治・哲学・アートなど多岐にわたり、分野を超えた知識のつながりこそが発想の源泉であったということがわかります。

冒頭に、知の探究シリーズでの議論を参加者とシェアし、ディスカッションのための共通の基盤を共有しました。

ディスカッション

ディスカッションでは、参加者それぞれの文脈から、課題資料を読んで特に印象に残った部分の感想を共有しました。レポートにまとめるのが大変なくらい、各々の視点から興味深い考察が飛び交い、その思想の広がりを実感しました。以下では、当日の主要な論点を紹介します。

1. コンピュータと表現について

今回の研究会を通して最も熱が高まったのが、アラン・ケイがコンピュータを表現のメディアと捉えていることでした。ケイは「コンピュータは道具ではない」と言います。これは課題資料の中で私が最も印象的だった一文でもあります。道具という言葉ではコンピュータの特性を語るには弱すぎており、「コミュニケーション・アンプリファイアー(増幅器)」、「ファンタジー・アンプリファイアー」でなくてはいけない(課題資料85ページ)と言います。

ケイ自身、コンピュータよりも音楽の方が自分自身にとって重要だと公言しており、「コンピュータよりも重要なものがあったため、ある程度さめた目をもってコンピュータを見ることができた。表現のメディアとして見ることができた。逆に言えば、表現欲求のない技術者に表現のメディアは作れないということだ。」という一文は非常に印象的でした。

ディスカッションでは、抽象画家パウル・クレー(1879 - 1940)の、「芸術とは目に見えるものをそのまま再現するのではない、見えるようにすること」であるという言葉が引用され、アラン・ケイに音楽的バックグラウンドがあったからこそ、テクノロジーを用いて未知の表現の可能性を探究できたのではとの議論がなされました。

2. ユーザーインターフェースの進化について

ユーザーインターフェースに関して、エンゲルバートのマウス以来、大きなイノベーションが発生していないという意見がありました。GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の発明で2次元で操作を行えるようになったのであれば、3次元マウスや4次元マウスがあったっていいはずなのに、いまだに発明されていない現状にあります。

課題資料の85ページでは、コンピューター内に人工の生態系をつくるVivariumプロジェクトが紹介されています。このプロジェクトではディスプレイ以外に何もついていおらず手と指で操作するという未来のメディアが構想され、そのイメージが映像によって表現されています。この点についてはMITメディアラボの副所長である石井裕氏が画期的な業績をあげています(後記参照)。

TED2: Alan Kay (Project Vivarium)

3.アランケイの思想と現代のAIブームについて

現在ブームとなっているAI技術は、パターン認識に依存した弱いAIであり、これは「意味の理解」がともなっておらずアラン・ケイが研究を行っていた強いAIとは異なるものだとのディスカッションがありました。ケイが影響を受けたのは、人間の思考を反映する強いAIであり、この分野に関する研究がさほど進んでいないことについての議論が行われました。

1987年にジョンスカリーCEO時代のAppleより発表されたナレッジナビゲーターでは、強いAIが確認できます。

Apple Knowledge Navigator Video (1987)

4. 教育とコミュニティの重要性

アラン・ケイが、特に教育分野に関する研究に関心を寄せていたということに関しても議論が行われました。コンピュータをメディアとして捉えていたアラン・ケイにとって、子どもがどのように新たなメディアを活用するのか、コンピュータを教育にどう役立てるのかに強い関心があったことは、とても納得できます。

まとめ

今回の研究会では、業界の枠を超えた多様な分野の方々に参加いただき、普段では考えることのない視点で議論できたことに非常に価値があったと思います。これまで自分が興味を持ってきたコンピュータの発展について、みなさんで議論したことはかけがえのない経験になりました。

Appleのイノベーションセミナーで理解してきたアラン・ケイのイノベーションの背景についての解像度がより高まることにもなりましたし、本レポートを書く過程で、わかった気になっていることが多いことを実感いたしました。私自身がこの研究会を通してどのようなことの理解を深めていきたいのかの自己課題を設定してみました。

・ダイナブックは実現したのか?
  ーしていないなら何が実現していないのか?
  ーアラン・ケイが思い描いた未来と現代の差分は何か?
・Vivaliumプロジェクトの成果としての未来のメディアのイメージとは何か?
・アラン・ケイは自身の先駆者からどんなバトンをつないだ人物なのか?
  ーヴァネヴァー・ブッシュからの影響
  ーダグラス・エンゲルバートからの影響
  ーテッド・ネルソンからの影響

今回の研究会では初回とは思えないほどの密度の学びがありました。引き続きアラン・ケイとコンピュータ・サイエンスに関する研究と発信をしていきたいと思います!

後記

 ・UIの発明については、下記の記事の中で石井裕さんがアラン・ケイから評価を受けMITに呼ばれるきっかけとなったクリアボードについての記事が見つかりました。

石井:アラン・ケイは、今回の私の受賞に寄せて、「石井のクリアボードは、ダグラス・エンゲルバート以降、過去30年間で見た最高の仕事だった」と言ってくれました。

MITメディアラボ石井裕教授に聞く─30年の研究を支えたエネルギー源とは?【前編】

・Dynabookは実現したのか?ということに関して、コンピュータやスマートフォンを、通常の道具と同様の感覚で使ってしまうことの危険性についてアラン・ケイが警鐘を鳴らすビデオが見つかりました。

IT25・50シンポジウム Alan Kay基調講演(日本語字幕付)IT2550_Alan Kay_Keynote

ご興味ある方はご覧ください!

参考資料

MITメディアラボはコンピュータの未来をこう作る – WirelessWire News
MITメディアラボ石井裕教授に聞く─30年の研究を支えたエネルギー源とは?【前編】
IT25・50シンポジウム Alan Kay基調講演(日本語字幕付)IT2550_Alan Kay_Keynote
Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework - 1962 (AUGMENT,3906,) - Doug Engelbart Institute

■お問合せ
本プロジェクトにご興味をお持ちの方は、下記のメールアドレスまでご連絡ください。
pr@flagship.cc

 

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